人工膝関節全置換術(TKA)後の歩行は、
術側下肢への機械的負荷を分散させるために、
代償歩行が見られ、
非対称性の歩行になると言われています。
非対称性歩行は、
慢性的に関節への負荷が過負荷となるため、
非術側の膝関節の変性を加速させる可能性があり、
非対称性の歩行はTKA後数年持続します。
非対称性歩行に関する因子は、
術後の回復に影響を及ぼすと言われており、
特に
大腿四頭筋力の非対称性は、
身体活動を低下させ、
歩行の非対称性に影響を及ぼします。
また、
転倒率とも関係していると言われています。
非対称性の要因に対して運動強度の低い研究は、
過去に行われていますが、
下り坂歩行のような
身体に負荷の大きな歩行に関してはまだ明らかとなっていません。
そこで今回は、
TKA後3ヶ月と6ヶ月における大腿四頭筋力の非対称性、下肢伸展筋力の非対称性の程度と下り坂歩行時の非対称性歩行との関係のお話です。
対象は46例としました。
TKA後3,6ヶ月にmotion analysisにて下り坂歩行を撮影し、
歩行時の下肢内部モーメントの合計(MT)と膝関節伸展内部モーメント(MK)
を計測しました。
下り坂歩行は、
10度傾斜させたトレッドミル上を、
0.8 m / sの制限されたトレッドミル速度で、
「下り坂を歩いているかのようにできるだけ普通に歩く」ように指示されました。
大腿四頭筋の筋力は等尺性収縮を測定し、
下肢の伸展筋力は、
Leg Extension Power Rigという機器を用い
レッグエクステンション時の力を測定しました。
その他に、
疼痛(numeric pain rating scale:NRST)、
バランス能力Activities-specific Balance Confidence (ABC) scaleも測定し、
MT、MKとの関係性も調べました。
それでは結果です。
大腿四頭筋力は、
TKA後3,6ヶ月のMTとの有意な関係性が認められ、
TKA後3ヶ月のMKとの有意な関係性が認められました。
TKA後6ヶ月のMKとの有意な関係性は認められませんでした。
NRSTとABCは、
MTやMKとの有意な関係性は認められませんでした。
矢状面における下肢伸筋モーメントの合計であるMTは、
立脚期の下肢全体の支持力と考えられ、
特に、
下り坂歩行時の立脚初期における大きなMKは、
歩行速度を減速させるために
MTの多くを占めると言われています。
そのため、
適切な膝伸展機構は、
下り坂歩行のような身体的に大きな負荷のかかる移動において、
四肢を安全かつ効果的に使用するために重要です。
大腿四頭筋力の改善は4-6ヶ月まで明らかであり、
術後1-3年続くとも言われています。
今回の結果から考えれると、
大腿四頭筋力が低下している状態では、
非対称性下り坂歩行が続き、
転倒リスクの増加や非術側膝関節の変性を加速させるため、
やはり、
大腿四頭筋力を改善させることは、
大きなリハビリの目標だと再認識させられます。
また、この論文の中で、
術後1-3年大腿四頭筋力が継続するのであれば
リハビリ期間を長期に設定することも検討する必要があると述べていました。
近年の臨床研究の結果から、
各疾患の回復が明らかになってきていますので、
リハビリ算定日数も「運動器」ではなく各疾患それぞれに検討する時代が来るかもしれません。
また、
今回の結果では、
術後6ヶ月の大腿四頭筋力はMKと有意な関係を認めませんでした。
一方、
MTとは有意な関係を認めました。
つまり、
膝関節だけに必要な伸展モーメントを発生させるには、
術後6ヶ月の大腿四頭筋力にて十分ですが、
下肢全体のモーメントに必要な大腿四頭筋力となると
もっと大腿四頭筋力の回復が必要ということです。
このことから、
大腿四頭筋運動連鎖(QKC:Quadriceps kinetic chain)のような考え方をしてもよいのではないでしょうか(QKCの言葉は勝手に作りました笑)。
つまり、
大腿四頭筋がきちんと筋発揮がなされ、
膝関節の固定もしくは動くことで、
股関節や足関節の内部伸展モーメントが発揮しやすくなる、
といった考えです。
QKCは勝手なイメージですが、
大腿四頭筋の筋ボリュームの大きさや
下肢の中心に膝関節が位置していることを考えると、
一理あるかもしれません。
本日は以上です。