近年、
人工膝関節置換術(TKA)における、
インプラント形状や、
手術の技術、
術後リハビリテーションが飛躍的に進歩しています。
でも、
いくつかの論文では、
患者さんの10-20%が、
TKA後の結果に不満を抱いていると報告しています。
この「不満」→「満足」に変えるために、
ロボット支援人工膝関節置換術(RA-TKA)を導入することで、
手術機械の安定性、
骨切りの正確性を向上し、
技術的誤差を軽減することで、
術後の満足度を向上させることが期待されています。
そこで今回は、
RA-TKAについての話をしてみたいと思います。
1.画像の必要性の有無
術前および術中の手術計画のために
RA-TKAは基本的には
単純X線写真もしくはCT画像を必要とします。
そのため、
RA-TKA用の画像撮影による患者さんの放射線被曝が度々問題となることがあります。
もちろん、
画像を用いないRA-TKAもあります。
ただ、
画像を用いない分、
手術の際には、
実際の骨のランドマークを参考にするので、
手術の正確性は、
ランドマークを取る医師の技術に左右されます。
また、
関節変形が激しいとランドマークの精度が落ちる可能性があります。
2.クローズドプラットフォームとオープンプラットフォーム
この言葉は聞き慣れない言葉ですよね。
RA-TKAにはクローズドプラットフォーム(クローズド)とオープンプラットフォーム(オープン)があります。
クローズドは、
各メーカーのインプラント設計とのみ互換性があることを意味します。
例えば
トヨタのカーナビはトヨタのカーナビしか使えなくて、
日産は日産製のカーナビしか使えないといった感じです。(わかりました。。。?汗)
米国で利用可能なほとんどのロボットシステムは、
クローズドプラットフォームです。
オープンは、
複数の異なるメーカーのインプラントに対応することができます。
しかし、
クローズドと比較して、
オープンでは、
詳細な生体力学的運動学的データが不足していることがあります。
3.どこまでロボットが手術をするのか
「ロボット支援」と聞くと、
1から10までしてくれる?、
一部だけ?
という疑問が浮かびます。
どこまでしてくれるかは、
・アクティブ
・セミアクティブ
・パッシブ
の3段階に分かれています。
「アクティブ」は、
整形外科医から完全に独立して、
設定されたプログラムを実行します。
整形外科医がロボットコンピュータソフトウェアで、
最適な骨切りと最終的なインプラントの設置位置を設定しておくと、
ロボットは高レベルの精度と精度で術前計画を実行します。
「セミアクティブ」は、
「アクティブ」で発生する可能性のある、
医原性軟部組織、神経血管損傷に対する
精度と安全性を確保するための保護手段を備えています。
そのため、
コンピューターで定義された骨切り量の誤差を感知すると、
速度が低下するか、完全に停止します。
「パッシブ」は、
「アクティブ」および「セミアクティブ」とは異なり、
外科医の制御下で手術を支援します。
3.臨床結果
「ロボット支援」と聞くと不安を感じる方もいれば、
逆に安心感を抱く方もいると思います。
では、
実際の臨床結果はどのようになっているのでしょうか。
RA-TKAは最小限の軟部組織のリリースを実行するため、
術後の痛みと腫れを減少させるという報告がされています。
また
30人の手動-TKAと30人のRA-TKAを比較すると、
RA-TKAの方が、
軟部組織の損傷、
骨切り量、
アライメントにおいて、
整形外科医のみで行うTKA(マニュアルTKA)より正確であり、
軟部組織の損傷が少ないため、
術後の腫脹がマニュアルTKAより少なく、
初期可動域が大きいと言われています。
さらに、
術後2年の間に受けるマニュピレーションの件数が、
1/4に減少したと報告されています。
患者立脚型評価はどのような結果になったかと言うと、
RA-TKAの方が、
の機能的転帰と痛みのPROMスコアの結果が良いと言う報告がされています。
また、
歩行と立位機能および満足度のスコアが、
著しく改善したという報告がされています。
術後3か月においても、
歩行と立位、高度な活動(階段等)、
歩行時の痛み、
満足度が改善したと報告されています。
疼痛に関しては、
RA-TKAを用いることで、
疼痛の訴えが少なく、
疼痛に対する投薬も少なくなったという報告がされています。
このように、
RA-TKAの有効性を述べる文献がある一方、
中、長期的に見ると、
マニュアルTKAとRA-TKAでは
機能的に差がないという報告もあります。
4.コスト
ロボットを使用するということは、
新たな診療報酬が発生します。
そのため、
従来の診療報酬より高額になります。
RA-TKAのコストを検討した報告では、
鎮痛薬の料金、
入院期間の短縮による入院費、
再入院費、
自宅退院によるコストの減少を含めると、
RA-TKAの方が
安く済むと言われています。
しかし、
膝機能や疼痛の改善度に対するコストをみると、
決してコスパがいいとは言えないようです。
医療費の減少が叫ばれる現在では、
RA-TKA=「よい」
とは必ずしも言えない状況です。
満足度の向上、
および
インプラント設置の精度向上は、
我々、医療従事者の研鑽が一番の近道かもしれません。