変形性膝関節症患者は、歩行速度が23%、ケイデンスが33%、歩幅が13%健常者より低下していると言われています。
また、同じ歩行速度でも、OA患者の方が健常者より立脚期がわずかに長いと言われています。
人工膝関節置換術後の歩行に関しては、歩行速度とケイデンスが術後2年で有意に改善するという報告や、術前の歩様では非対称性がみられたが、術後6ヶ月で非対称性が改善されたと報告されています。
このように人工膝関節置換術には歩行能力や歩様が改善されることがわかっています。しかし、歩行を改善させるための詳細なリハビリテーションプログラムは各個人によって異なり、「これだっ!!!」といった「王道」がありません。
歩行以外に関しても漸増運動もしくはプールエクササイズを推奨する報告がされていますが、推奨されている詳細な内容のプログラムはありません。
そこで、今回は、人工膝関節置換術後1年間にわたり漸増運動のホームプログラムの歩行への効果および歩行速度や膝の筋力、疼痛との関係性についての文献です。
果たして、漸増運動の効果は???
まず、コンピューターでランダムに、エクササイズ群(EG群:53名)とコントロール群(CG群:55名)の2群にわけます。
術後の入院期間は1週間とし、退院の際に、EG・CC群ともにコールドパックの使い方と以下のエクササイズが指導されます。
①自動,他動による膝関節屈曲-伸展、②下肢の自重を用いて、立位にて股関節伸展と外転のエクサササイズ
これらのエクササイズを 10-15回 1-2回/日実施してもらいました。また、歩行距離と時間を段階的に伸ばすことも退院時に指導されます。
EG群は、上記の運動にプラスしてさらに運動が指導されます。詳細はこちらのPDFファイル(←クリック)。 (LINE@登録されている方にはパスワードを配信しています。LINE@登録されていない方でパスワードが必要な方は、LINE@登録後“パスワード必要”とメッセージを送信してください。)
CG群はその他の運動指導を受けませんでした。
測定項目は、歩行速度・ケイデンス・膝伸展屈曲筋力・疼痛です。
測定時期は術前、術後2ヶ月、術後2ヶ月から12ヶ月後(つまり術後14ヶ月後)です。
では、結果です。
EG群にトレーニング効果が見られたのは、①最大歩行速度②最大ケイデンス③立脚期の時間が著しく改善しました。
また、
最大歩行速度との関係は、膝関節屈曲・伸展筋力、荷重下での疼痛と弱い相関が認められました。
以上のような結果となりました。
今回の論文は、術後の歩行を改善させるためのホームプログラムを決定するために、漸増運動を用い歩行への効果を調査した文献でした。
今回の結果は、術後に漸増運動を行うことで最大歩行速度・最大ケイデンス・立脚期の時間の改善が見られました。また、最大歩行速度は膝屈曲・伸展筋力、荷重時痛と弱い相関が認められました。
歩行速度やケイデンス、立脚期の時間が改善した要因として、一つはEG群のホームプログラムが荷重下での運動が多かったことが考えられます。
CC群のホームエクササイズは、①自動,他動による膝関節屈曲-伸展、②下肢の自重を用いて、立位にて股関節伸展と外転のエクサササイズでしたが、EG群のホームプログラムは、スクワットやステップエクサササイズなど荷重下のエクササイズが多かったからではないでしょうか。
筋力に関しては、術後14週で膝関節伸展筋力が術前以上に回復しており、これは、荷重下のエクササイズでも伸展筋力が改善する?ことを証明していると思います。
この文献の欠点ですが、EG群は退院時の運動指導 + ホームプログラムを行いました。一方、CC群は退院時の運動指導のみでした。これでは両群の運動量が大きく異なります。比較するのであれば、CC群には非荷重下のエクササイズをEG群と同じ量 or 回数等を行わせ、群間で比較することができればよりエビデンスが高く、臨床における良い指標となる論文に近づくのではないかと思います。
いかがでしたか?
両群を比較していないため、どちらの群が良いとは言えませんが、EG群の行ったトレーニングを行うことで、1年後には歩行やケイデンスに改善が見られることがわかりました。
「まだ歩行が改善しそう!!!」という患者さんには、退院時指導として今回実施したEG群のトレーニングを導入してみてはいかがでしょうか。