人工膝関節全置換術(TKA)後の方の一部には、
術後の疼痛やROMの減少、
固有受容器や筋力の弱化、
バランスや歩行能力低下を呈する方がいます。
このような方達は転倒しやすく、
術後6ヶ月から1年において7-33%が転倒していると報告されています。
転倒についての報告は、
・術後6ヶ月間の調査で膝関節屈曲と足関節底屈のROMが転倒と相関した
・術後39ヶ月間の調査で膝関節のROMと疼痛が転倒と相関した
以上のように報告されています。
しかし、
入院・外来のフォロー期間や治療の多様性が
転倒にどのように関連するのかはっきりとわかっていません。
そこで今回は、
TKA後6ヶ月における転倒に関連した要因についてのお話です。
術後4週に
バランスの指標としてBESTest、
バランスへの意識としてBalance confidence scale、
疼痛は膝関節最大屈曲時のNPRS(numeric pain rating scale)、
ROMはゴニオメーター、
筋力は等尺性収縮、
を測定しました。
固有受容器機能の測定は、
端座位にて非術側の膝関節角度と術側の膝関節角度の差を測定しました。
また、
術後6ヶ月において
転倒時の環境
・転倒の有無
・時間帯
・場所
・つまずいたのか滑ったのか
・転倒の方向
・歩行補助具の使用
などを対象から直接聴取しました。
それでは、
気になる結果ですが、
まず、
転倒者は23人(17.2%)でした。
術後4週までに転倒した群と転倒しなかった群を比較すると、
・年齢(転倒群が若い)
・疼痛(転倒群の疼痛が強い)
・固有受容器(転倒群の固有受容器が機能低下)
・筋力(転倒群の術側・非術側の屈曲筋力の低下、術側の伸展筋力の低下)
以上において有意差をみとめました
転倒時の環境は
1回転倒が16名(69.6%)、2回転倒6名(26.1%)、3回転倒1例(4.3%)
最初の転倒の中央値は15週でした。
1日あたりの転倒率は0.122人、
23人の転倒症例が1年以内に再び転倒したのは2名(全体の8.7%)でした。
31の転倒のうち一番多い時間帯は午後(58.0%)で歩行中(67.7%)でした。
原因は「滑り」が35.5%、「つまずき」35.5%でした。
転倒の方向は51.6%、
転倒場所は家が45.2%、家以外の屋内が29.0%でした。
87.1%が歩行補助具を用いていませんでした。
怪我は、4人が打撲でした。
転倒に関する要因は、
年齢が若いこと、固有受容器障害、強い疼痛が転倒と関係がありました。
転倒は、
歩行やQOLに関わる重要な懸念事項です。
そのため、
転倒リスクの高い症例を特定し、
転倒リスクへの対策を実施する必要があります
過去の報告では屋外の転倒が多いことが示されていますが、
今回は屋内の症例が多い結果となりました。
この違いはフォロー期間が異なることが考えられます。
過去の研究はフォロー期間が1年でしたが、
今回は6ヶ月ということで、
活動環境に差がでたと考えられます。
年齢が若い症例に転倒が多かった理由として、
術後6ヶ月では
高齢者より若年者の方が活動量が多く、
転倒しやすいと考えられます。
平衡感覚を維持するために
様々な感覚システムからの情報を用い荷重に応答する必要がありますが、
加齢に伴う前庭系や体性感覚機能の低下に加えてさらに、
固有受容器機能の低下が加わると
転倒リスクが増加します。
疼痛に関しては、
過去の報告では術後19-31%が術後成績に悪影響を及ぼす疼痛を有していると報告されており、
これも転倒リスクを増加させる一要因です。
理学療法士として転倒因子に入院中から関わることができるもに関しては、
入院中から関わっていき、
少しでも転倒リスクを減少させる必要があります。
また、
退院時には、
術後半年、1年における個人個人の転倒のリスクを説明し、
転倒予防に対する教育も必要です。
今回の結果を参考に、
患者さんの転倒予防へ関わっていきましょう。