人工膝関節置換術後には、手術侵襲や手術による炎症、後十字靭帯の温存または切除によって膝関節周囲の環境が大きく変わります。
特に筋や腱、靭帯への侵襲のある人工膝関節の術後には固有受容器への影響が考えられます。
このような固有受容器への影響は人工膝関節置換術後の膝関節の運動に影響がないのでしょうか?
臨床において理学療法士はどのように考え、アプローチしたらよいのでしょうか?
私も実際のところ、膝関節以外の部位が代償を行うことや、術前に変形性膝関節症を患っているため固有受容器そのものが機能低下をしていると考え、あまり重要視しておりませんでした。
そこで今回は、人工膝関節後の固有受容器について少し調べましたのでお伝えします。
【固有受容器とは…】
固有受容器とは、関節の空間位置や関節の動きを認識するセンサーであり、バランス能力等に関して重要な役割を担います。
この固有受容器が人工膝関節置換術後に機能することは、術後の歩行や日常生活動作(ADL)に重要となります。
【固有受容器における海外の報告は…】
人工膝関節と固有受容器についての論文は
1990年代に多く書かれており、2000年代の人工膝関節と固有受容器の関係についての論文においても、その多くがこの時代の論文を引用しています(個人的感想ですが)。
内容は、
人工膝関節術後症例と検体の後十字靭帯の細胞を採取し、固有受容器の細胞の確認を行った研究や膝関節の角度を変化させ、膝関節の角度を再現させる研究などがあります。
同じように、2000年代に入って行われた研究でも、目隠しをして椅子に座り対象者の膝関節の角度を変化させ、膝関節の角度を再現させる研究が行われています。
結果は、
- 後十字靭帯温存型人工膝関節置換術と検体における後十字靭帯の固有受容器に有意差は認められなかった
- 後十字靭帯温存型と切除型を比較すると、後十字靭帯温存型の方が、膝関節角度の再現性がよかった
- 後十字靭帯温存型人工膝関節置換術後と後十字靭帯切除型人工膝関節置換術後、健常膝のどれにおいても関節角度の認識に有意差を認めなかった
以上のように、後十字靭帯が温存されることで固有受容器が温存され、膝関節角度の再現性がよいという報告と、後十字靭帯切除型と差がないという報告の二通りがあります。
【どのようにリハビリで取り組んでいくか…】
後十字靭帯が温存されている分、物理的にも固有受容器が多く存在していると考えられますが、文献からの報告では、後十字靭帯温存型と切除型を比較すると、様々な報告がありました。そのため、両者に対してそれぞれどのようなアプローチを行っていくかは今後さらなる検討が必要だと思います。ただし、PCL切除型の場合は、固有受容器に大きなダメージがあることを念頭に入れましょう。
また、固有受容器に関係なく後十字靭帯温存型か切除型によって膝関節の環境が異なりますので、機種の違いにおける膝関節の安定性には注意した方が良さそうです。
私的意見ですが、人工膝関節置換術後に固有感覚が変化しないと仮定すると、膝関節以外にて固有受容器の代償が行われていると考えますので、この代償が不可能な症例には、バランス能力が低下し転倒等のリスクが増大することも考えられるため、バランス能力の改善等のアプローチを検討する必要がありそうです。
[参考文献]
・Immunohistochemical Analysis of Mechanoreceptors in the Human Posterior Cruciate Ligament.
・Proprioception after knee arthroplasty.The influence of prosthetic design.
・Functional Comparison of Posterior Cruciate-Retained versus Cruciate-Sacrificed Total Knee Arthroplasty.