- 2017-12-30
- 人工膝関節置換術全般, 変形性膝関節症, 転倒
こんばんは、TKA Labです。
今回は転倒恐怖感についてです。
転倒恐怖感や転倒は高齢者に生じやすく、
外傷や活動の制限、身体機能の低下を引き起こすと言われています。
特に、
65歳以上の高齢者の25〜55%が転倒恐怖感を持ち、
そのうち1/3が1年間に転倒しています。
転倒恐怖感と身体機能の低下には密接な関係があり、
歩行能力の指標(Timed Up and Go (TUG) test、6分間歩行テスト等)が
ちょっとでも低下すると、
高い確率で転倒恐怖感を持つと言われています。
変形性膝関節症患者も、
疼痛や筋力低下、固有受容器の異常の影響から身体機能が低下し、
転倒のリスクが高まります。
このような状態から日常生活が制限され、
最終的に転倒しなくても転倒恐怖感を持ちます。
今回は、
人工膝関節置換術を受けた変形性膝関節症患者の
術前後の転倒恐怖感について調査した文献の報告です。
今回は68名が対象です。
(平均年齢:73歳、平均BMI:30.36、膝関節痛は1年以上継続)、
この68名の対象者のうち22名は膝以外に疼痛を有していました。
また、12名は膝以外に人工関節を実施していました。
慢性疾患の有無は、
4人が慢性疾患なし、
24名が1つ、
32名が2つ、
8名が3つ有していました。
調査時期は、
- TKA2週間前
- TKA後1年
調査項目は、
- 転倒恐怖感の有無
- 過去一年間の転倒の既往
を調査しました。
その他の調査項目は、
- Physical Activity Scale for the Elderly (PASE)(高齢者の活動度合を図る指標)
- Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index (WOMAC)
- SF36
- Berg Balance Scale (BBS)
- Timed Up and Go (TUG) test
です。
それでは、結果です。
転倒恐怖感がある人の割合は、
術前:56名(82.4%)
術後:30名(44.1%)
です。
転倒恐怖感のある症例の特長は
- 女性、②転倒の既往がある、③慢性疾患が二つ以上有する、④74歳以上
です。
転倒恐怖感のある症例は、
- PASE
- SF36から算出したphysical and mental component summary (PCS & MCS) scores
- SF36
- 疼痛
- WOMAC
- BBS
- TUG
といった身体機能が低下していた
※PCS,MCSについてはこちらの”サマリースコア”の項目をご覧ください
術前の転倒恐怖感の予測因子として強く関連したものは、
- 転倒の既往があること(OR=9.83, p=0.028)
- MCS (OR=0.88, p=0.024)
- TUG (OR=3.4, p=0.013)
でした。
つまり。
- 転倒の既往がない人よりも、既往があると8倍転倒恐怖感を有する
- MCSの1ポイントの増加は、12%の確率で転倒恐怖感を減らす
- TUG が1秒増加すると、4倍転倒恐怖感を有する
術後の転倒恐怖感の予測因子として強く関連したものは、
- 転倒の既往(OR=16.51, p=0.041)
- 2つ以上の慢性疾患(OR=17.33, p=0.011)
- MCS (OR=0.86, p=0.015)
でした。
つまり、
転倒の既往があると16.5倍、慢性疾患2つ以上あると17.3倍転倒恐怖感を持ちやすくなり、
MCSスコアが1ポイント増加すると、転倒恐怖感が14%減少しやすくなります。
以上のような結果となりました。
本文の冒頭にも書きましたが、
転倒恐怖感は転倒に繋がり、
転倒は日常生活を著しく制限します。
できるだけ転倒を起こさせず、
転倒恐怖感を持たさないためにも、
リハビリにおけるアプローチ方法を検討していく必要があります。
今回の結果から、
術前後ともにMCSが転倒恐怖感の抑制に役立つのではないかと考えられます。
MCSは、SF36の下位尺度のうち①活力②社会生活機能③日常役割機能③心の健康の項目からなるため、
精神的に意欲的な生活を送るために理学療法士として何ができるのかを常に考えながら、
治療アプローチを検討していく必要があります。
(注:日本語版SF36の因子方法がオリジナル版とやや異なる点に留意して解釈する必要がある)
また、
術前にTUGが転倒恐怖感に影響を及ぼしていましたが、
術後に身体機能の項目が転倒恐怖感に影響を及ぼしませんでした。
なぜかというと、
人工膝関節置換術によって術後に身体機能が改善されたことで、
転倒恐怖感に影響を及ぼさなくなったと考えられます。
しかし、
手術後に転倒する症例がゼロではないため、
身体機能が十分改善しているか、
慢性疾患に理学療法士としてアプローチできるかを含め、
転倒恐怖感を持つ症例を減らしていく努力が必要となるでしょう。
以上です。